KAMISHIMA CHINAMI 2007 S/S コレクションレポート
取材に至るまでの経緯
2006年9月5日、東京・丸の内にて、カミシマチナミ(KAMISHIMA CHINAMI)の 2007 S/S ショーが催された。このショーは、東京コレクション(日本ファッションウィーク)期間中に行われたものである。
筆者は、KAMISHIMA CHINAMI 2006 S/Sの取材をさせていただいて以来、毎シーズン、カミシマチナミのコレクションの招待状を送付していただいているので、今シーズンもショーを観ることができた。このブランドは、シンプルでエレガントなデザインもさることながら、素材の研究や開発に特に力を入れている通好みのブランドなので、個人的にはいつも非常に気になっているブランドの 1つである。
会場は 東京国際フォーラムの D7 であり、19:30 からの開催が予定されていた。しかし、直前に行なわれていたイリアド(ILIAD)のショーが遅れた関係で開演が遅れ、予定されていた開場時刻より少し遅れて会場内に入ることになった。
会場内に入ると、例によって、来訪者それぞれの席に、協賛であるロイズ社のお菓子の箱詰めが置いてあり、またもや得した気分になった。予定より二十数分ほど遅れてのショー開始となったが、ブランド毎に会場が異なる関係で多少の遅れが生じることは織り込み済みであったので、それほど時間は気にならなかった。
尚、カミシマチナミ(株式会社ティスリー)もロイズも北海道に本社を置く企業である。
ショーの様子
今回のショーのテーマは、「プラネット」。ギリシャ語で「さまようもの」を意味するそうだ。その意味合いから、彷徨い、流れ、野生へと帰る造形を表現したそうで、個々のアイテムのディテールも、遊動パーツと呼ばれる動きのあるデザインを取り入れたり、プリーツの分量を多く取ったり、シューズも柔らかなレザーを用いることで動きを持たせ、変形しやすいようにしている等、加工やパターン、素材選択等の全ての場面において、出来上がったアイテムに動きが出るように意識しているのだそうだ。
例えば、右写真のジャケットは、エジプト産ギザ綿の強撚糸と光沢感が強い高級なアイルランド産のリネンを混紡したコットンリネンフランス綾を用いたもので、後身頃の腰部分にリボンが取り付けられており、このリボンを絞ったり緩めたりすることでウエスト部分のディテールを調節できるようになっている。また、ブレストはダブルの仕様になっているが、ゴージラインの部分まであるボタンを全て閉じた場合は、スタンドカラーのジャケットのように着ることもできる。さらに、胸ポケットの曲線的なラインや肩にある飾りフラップ、さり気なく施されたチェンジポケット等が「はずし」の役割を果たし、より動きを出す要素になっている。
尚、インナーに着用しているのはキュプラ50%・コットン35%・リネン15%の非常に柔らかな肌触りのカットソーであり、全く同じ糸を使用し、5本線引き揃えの鹿の子編みにした素材を用いたジャケットもあるそうだ。全く同じ糸を用いて異なる素材感を生み出している点に、ファクトリーブランドとしての本領が発揮されているという印象であった。
また、スカートは「BBシフォン」と呼ばれるキュプラ100%素材を用いたもので、ランダムに折り返すことでボーダーが表れるようにデザインされている。
左写真では、様々な技法を用いて構成されたサークル柄刺繍が施されたコットン100%のスカートを、敢えて胸の部分まで上げて着用する、という、「はずし」の効いたスタイリングがなされている。このスカートも、プリーツ部分には、刺繍が施されている生地とは異なる素材のコットン100%の生地を用いる等、細かな配慮がなされている。プリーツ部分の生地を異なるものにした理由は、柔らかな生地をより多く用いることで、ボリュームを美しく出したかったからなのだそうだ。
また、トップスに羽織っているのは、強撚糸で織られた生地をソフト塩縮加工したコットンボイル生地を用いたブラウスで、肩部分がギャザーになっていたり、ウエストや袖口部分がリボン等で絞れるようになっていたり、七部袖になっていたりする点が、しっかりと「はずし」の役割を果たしている。
右写真のジャケットは、非常に上質なライトグレーのシープレザーを用いたアイテムで、先述したコットンボイルのブラウンのブラウス同様、肩部分がギャザーになっていたり、ウエストや袖口部分がリボン等で絞れるようになっている。レザーであるにも関わらず、柔らかなギャザー感が表れている点が特に驚くべき点であろう。それほどまでに薄くて柔らかなレザーであるが故に、右写真にある通り、ロングスリーブの袖を肘より上まで捲ることすらもできるのである。まさに、トータルな着方で「はずし」を表現できるアイテムであるといえる。
また、右写真で着用しているドレスは、コットン76%・7匁シルク24%のソフトボイル生地を用いたもので、ウエスト部分や裾部分等にギャザーやタックをたっぷりととった贅沢なアイテムとなっている。生地1枚だけだと透けてしまうところ、主要な部位には同一の生地を2枚重ねにする等して、透け感を抑えると共に、膝から下にかけて微妙な風合いの差異が表現されている点が特徴的である。
また、他に筆者が個人的に気になったアイテムは、左写真にある、北海道の厚岸で採れた倒木の繊維で織られた「木織 ボワゼット(boisette)」を用いて作られたパニエである。この生地は、間代材を 0.1mm の薄さにスライスし、ウレタン樹脂をベースとする薬液に漬け込んでから細かく糸状に裁断した「ウッドヤーン」を横糸に、シルクやポリエステルを経糸に使用して引箔織の技法で布にした新素材であり、「木を織物に」をテーマに開発されたものなのだそうだ。生地をウェーブさせた時に出来る山の部分の角の辺り等が、木を折り曲げた時のように、微妙にささくれ立っているところが何ともいえない風合いを醸し出しているのが印象的なアイテムである。ちなみに、このアイテムの素材が木であることを、ショーを観ただけで気が付いた人は、少なくとも展示会を訪問した人の中にはいなかったのだそうだ。
尚、左写真では、起毛の部分にモダール綿を使用したコットン70%・レーヨン30%のコール天を用いたベストに、リネン66%・コットン34%のギャバ(コットン100%とシルク100%の別布あり)のパンツを合わせてスタイリングされている。ベストのウエスト部分のアジャスターや襟からポケットにかけて通されたテープ、パンツの裾部分ボタンの付け方やパターンの切り替え等が、うまく「はずし」の役割を果たしている。
取材を終えて
上記に記したもの以外でも、365万色を用いたキュプラ100%のリーフドットプリントのアイテムのシリーズ(画像をみる)や、多色の色糸を模様を変えながら編み込むインターシャ技法で編んだレーヨン55%・ナイロン25%・リネン20%の山型柄のニットのシリーズ(画像をみる)等、様々な試みをなしているアイテムが多く、ファクトリーブランドらしさをより強く印象付けられた。
以上に記してきた通り、カミシマチナミというブランドは、相も変わらず、流行に流されることなく、徹底した素材開発と製品手染めに拘る姿勢を維持し続けており、他の東京コレクションブランドの中でも、ある意味で異色の存在であり続けている、といえよう。そういった意味で、個人的にはとても気に入っているブランドである。
尚、今回のテーマである「プラネット」のイメージから、右上の写真にあるように、キャットウォークの左右に光の亀裂が入れられているようだ。
ともあれ、上品な「はずし」と職人的な精巧さを兼ね備えた玄人好みのアイテムをお探しの方には、2007 S/S のカミシマチナミをお薦めします。
ランウェイショーのルック
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