ファショコン通信

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KAMISHIMA CHINAMI 2006 S/S コレクションレポート

取材に至るまでの経緯

2005年11月2日、東京・明治神宮外苑にて、カミシマチナミ(KAMISHIMA CHINAMI)の 2006 S/S ショーが催された。このショーは、東京コレクション(日本ファッションウィーク)期間中に行われたものである。
今回は、日本ファッションウィークと銘打って、東京コレクションが新しくなる記念すべきシーズンであるということで、以前から気になっていた、カミシマチナミのショーに足を運んでみることにした。カミシマチナミは、筆者が個人的に好きなタイプの服を作るブランドであったし、さらに、以前、個人的に北海道へ旅行に行った際、新千歳空港内のディスプレイでカミシマチナミのショー画像を放映しているのを見て驚いたこともあったので、特に印象に残っていたのである。
そして、ショーを観た後にレポート記事も作成したいと考えていたので、カミシマチナミの公式サイトでプレスの連絡先を調べて、事前に取材の申入れをして、招待状を送付していただいた。
会場は聖徳記念絵画館前の中型特設テント「KURENAI」であり、21:00 からの開催が予定されていた。筆者は今回、プレスとしてショーに招待されていたので、開演 30分前に会場に着き、すぐに会場内に入ることができた。
会場内に入ると、来訪者それぞれの席に、協賛であるロイズ社のクッキーの箱詰めが置いてあり、少し得した気分になった。予定より十数分ほど遅れてのショー開始となったが、今回のショーの内容に関するパンフレット等に目を通したりしていたので、それほど時間は気にならなかった。
尚、カミシマチナミ(株式会社ティスリー)もロイズも北海道に本社を置く企業である。

ショーの様子

今回のショーのテーマは、「北風」。イソップ童話の「北風と太陽」のエピソードを念頭に置きつつ、しかし、北風を「悪者」としては捉えず、寒さを知ってこそ暖かみの大切さ・有難みを感じることができるのだ、という意味で、いわば「暖かみの象徴」として北風を捉え、それを素材感やイメージに投影したのだそうだ。
上記のテーマにも表れている通り、実際のアイテムも、オフホワイトやライトピンク、ベージュ等の淡い色使いを基調としながらも、コットン、リネン、シルク等の天然繊維を独特の拘りを持って加工して使用することにより、素材独特の風合いが醸し出す暖かみを感じられるものが多かった。
例えば、右写真のデニムジャケットは、カリフォルニア州のサーフォンキンバレーで栽培された超長綿を用いたもので、独特のムラ形状のコーマ糸にシルケット加工を施したものだそうである。また、遠目に見るとグレーにも見えるこのアイテムは、まずインディゴで製品染めをした後、ブラウンで再び製品染めをし、その後でストーンバイオウォッシュ加工を施してあるので、独特のムラ感のある色彩となっているのも特徴的である。リネンレーヨンツイルの七分丈パンツとの相性もとても良く、カジュアルなアイテムを用いつつも上品な仕上がりとなっている。
尚、右写真のデニムジャケットは背中のヨークに2つ穴が開けられており、ここにサスペンダーを通すこともできるようになっている。店頭に並べる時はサスペンダー付きで販売するそうだ。さらに、このジャケットはリバーシブルで着用可能だそうだ。
(アイテムの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
アイテムの様子
筆者はショーに訪れた後に展示会にも訪れさせていただいたのだが、その際に印象に残ったのが、左写真にある、シルク100%の裾の内側部分をラバーコーティングした、ライトパープルのパンツである。このアイテムは、荒裁断の後で 1枚1枚ラバープリントをして裁断・縫製を行ったもので、シルクのドレープ感と折り返した裾部分の光沢と張り感のコントラストがアクセントとなっており、細身のシルエットと相まってとても美しいものとなっている。ライトパープルに製品手染めされたシルクは色合いも絶品である。
トップスはスイスのヘルマンビューラー社でクリーンな水力発電により化学薬品や柔軟材を用いずに作られた生地のブラウスであり、経糸・緯糸ともに細番手 80/1 の超長綿を用いているため、極めて薄い生地が独特の軽やかな風合いを出しており、これが細身のパンツと相性良くまとまっていた。
尚、ネックレスは世界最小のステンレス製のボールベアリングをレザーに埋め込んだものであり、パンツとブラウスが醸し出すソフトなイメージをハードなイメージで引き締める役割をも果たしている印象があった。
(アイテムの様子は左の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
アイテムの様子
圧巻だったのは、4種類の異なる素材をはぎ合わせて作られた上品なオフホワイトのスカート。ショーではさらに、3種類の異なる素材をはぎ合わせて作られた、サスペンダーにより固定するオフホワイトの巻きスカートと合わせてコーディネートされていた。スカートは全体で 52枚はぎ、巻きスカートは全体で 220枚はぎとのことで、その贅沢な素材使いはもはや筆舌に尽くしがたいほどであり、ショーの最後を飾るのに相応しいコーディネートであった。
尚、スカートの下には 16匁シルクサテンクレープ素材を用いたオフホワイトのパンツを、トップスにはパンツと同素材のライトグレーのカットソーを合わせている。
上記のスカート等を含めて、全てのアイテムは製品手染めによるものである。
(アイテムの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)

取材を終えて

今回のショーと展示会を観て感じたのは、カミシマチナミのアイテムは、ショーで観るだけでもとても上品で繊細で美しいのであるが、それにも増して、展示会等で実際にアイテムを手にとってみると、ショーを観ただけでは俄かには気付き難い、素材やパターンに対する職人的な拘りを随所に感じられるものがとても多いと感じだ。
上記に記したもの以外でも、様々な試みをなしているアイテムが多く、ファクトリーブランドであるというのも頷ける。徹底した素材開発と可能な限り製品手染めに拘る姿勢で、「うちのブランドの特徴は素材のカラーと素材感」や「流行色等は追わない」と言い切るティスリーの渡部社長の言葉には、他のブランドとは一線を画しているのだという自負が込められているかのようであった。
尚、今回のテーマである「北風」という言葉に男性的なイメージも見出したそうで、伝統的なダンディズムの象徴ともいうべきサスペンダーを随所に取り入れているのは、そのためだそうである。
ともあれ、女性的な上品さと美しさの中にも職人的な繊細さと緻密さを兼ね備えた拘りのアイテムをお探しの方には、2006 S/S のカミシマチナミをお薦めします。
(フィナーレの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)