Aski Kataski 2014-2015 A/W コレクションレポート
今季のテーマは「狩人の夢(Réve de chasseur)」。デザイナーの牧野氏が好み、且つ得意とするハンティングスタイルを軸に、主に19世紀のヴィンテージ素材を用いて1つ1つ手作業でアイテムを作り出すという、ブランドの基本的なスタンスを保持して発表しているのが今回のコレクション。今季のルックブックにもあるように、19世紀では女性もハンティングに興じていたようで、女性のアイテムでも行動の妨げにならないように、上着の丈を短くしたり、余計な装飾・部位が削られたりしており、そういったディテールがイメージとして反映されたアイテムが多く発表されていた。
手染めのリネンのヘリンボーンを用いた生地を用いた1900年代フランスの伝統的なスタイルのハンティングジャケットでは、ポケットやフラップの周囲、パターンの切り替え部分やカラーの飾りステッチに至るまで、非常に細かく丁寧なステッチワークを駆使して装飾性を高めて女性らしいイメージが醸しだされていた。また、ハンティングジャケットによく見られる吊り下げゲームポケットを設けたり、1900年~1940年フランスの馬や動物のレリーフがあしらわれた金属のボタンを使ったりしているのがユニークな点であった。
尚、同素材を用いたジョッパーズも発表されており、他のアイテムと合わせてトータルでハンティングスタイルを楽しめるように工夫されていた。
ウールツイルを用いた森人のジャケットは、袖口に掛けてフレアになっていたり、袖山と袖口に軽くギャザーを寄せたり、後ろ見頃中央部分に5センチ程度のシャーリングを施したり、短い間隔のダブルブレストにしたり、と、全体的に愛らしいイメージになっていた。このアイテムは特に裏地に工夫があり、様々な柄織リネンのライニングをパッチワーク状にパターン分けされているのがユニークであると感じた。表地のシャーリング部分に該たる部位に補強のための裏地がきちんと施されている点も、細かな配慮として注目される。服好きとしては思わず裏返して着たくなる衝動を止められなくなってしまうアイテムであった。
また、今回、筆者が個人的に特に気になったのが、非常に厚手かつ上質なワックスコットンを用いた1930年代フランスのハンティングパーカ(プルオーバー)であるが、このアイテムは、ウエスト部分をベルトで絞れるようにしたり、袖全体を細めにしたりして全体的にタイトなシルエットを表現しつつ、背中身頃中央にインバーテッドプリーツを施したり、クチュールの技術を駆使して袖に前振り利かせたりする等して、非常に堅牢な生地を用いつつもアクティヴに動きやすくなるように工夫されていた。これだけの厚みのワックスコットンで動きを含めた着心地にまで配慮されているアイテムはなかなかないとのことで、さもありなん、と感じさせるだけの作り込みがなされたアイテムであると感じた。襟がチンストラップ風にボタン留めできるようになっているので、寒風吹きすさぶ暴風雨の時に着用してもスマートかつオシャレに凌げそうだと感じた。袖のストラップには前述の動物レリーフボタンがさりげなくあしらわれていたのも小粋であった。
尚、同様の素材を用いて仕立てた森人のボディスは、これでもかといわんばかりのステッチワークのコルセットで、相変わらずある種の自虐性が感じられる服作りを継続されているのが垣間見られ、思わずほくそ笑んでしまった。
以上のほか、ウエスト部分を手作りリネンの包みボタンとストラップで持ち上げられるようにして、馬にまたがりやすいように工夫された丈調節のディテールを再現したヴィンテージローシルクのハンティングスカート、ハンティングの合間にトランプゲームで遊んだという逸話にインスパイアされ、胸部分のフラップがトランプのモチーフ(スペード・ハート・ダイア・クラブ)になっているフレンチリネンを用いたシャツ、透け感のあるリネンボイルの下にハンティング柄のリネンを重ね合わせて縫製することで、うっすらとした夢のようにハンティング柄が見えるように工夫されたジレ、ヴィンテージシルクを用いてシャーリングが施された製品手染めの森人のティアードドレス、ヴィンテージアルパカウールとムートンファーのライニングを施し、腕が寒くならないようにと袖口からムートンが覗くため、アームホールから袖口にかけて全体的に細身になっているものの構造上動きやすく工夫された、上質な厚ディアスキンを用いた丈の短いスポーツジャケット等、ご紹介したいアイテムは多々あるが、紙幅の都合上割愛する。その他の商品の説明はAski Kataski 2014-2015AWコレクション。に譲ることにしたい。
というわけで、フルラインアップのアスキカタスキのコレクションを堪能するのは2006 S/S コレクション以来だったわけであるが、テキスタイル・レザーの風合いの良さやパターン・縫製技術を含めた着心地の良さは所与の条件としてクリアされていて、その先のお話だけに集中して注目できる数少ないブランドであるということを再認識できた。また、強烈な個性を放つ独特の世界観も相変わらず健在で、クリエイションという観点で評価すると最も高いレベルでのコレクションを維持して展開されているブランドであると感じた。
とにもかくにも、服好きとしてのツボを刺激されまくった、非常に味わい深いコレクションであった。ご馳走様でした。