ファショコン通信

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Aski Kataski 2006 S/S 展示会レポート

取材に至るまでの経緯

2005年10月9日14:00。感動と興奮と衝撃と驚嘆に満ちた 1時間が、幕を開けた。
2005年10月7日から10月14日まで、パリのアトリエにて、アスキカタスキ(Aski Kataski)の 2006 S/S 展示会が催された。この展示会は、パリコレクション期間中に行われたものである。
筆者がこの展示会に訪れたのは、10月9日。今回、筆者はパリコレクション期間中にパリに滞在する機会に恵まれたので、以前から気になっていた、アスキカタスキの展示会に足を運んでみることにした。
このような展示会は通常、一般の人には公開されていない。そこで、アスキカタスキの連絡先を調べて、ファッションサイト管理者が取材をさせていただくという名目で、メールにて事前にアポイントをとり、約束通り 9日 14:00 に会場に到着した。
ちなみに、ファーストコンタクトから最終的にアポイントをとるまで、メールの応対は終始、デザイナーの牧野氏ご本人がされ、非常に親切にしていただいた。既にこの時点で、筆者はアスキカタスキに好意を抱き始めていたのであった。
会場はパリアスキカタスキのアトリエ。時間通りに会場前に到着したのだが、一般のアパートの一室のようで、入口のオートロックの開け方がわからない。仕方ないので、連絡先に携帯で電話をしたところ、入口までどなたかが出向いてくださる、とのこと。少し待つと、何と、牧野氏ご本人が出向いてきてくださった。
そのまま、牧野氏の案内のもと、会場となるアトリエへ。アトリエは、牧野氏が居住し、且つアトリエとしているアパート内の一室。部屋の中央には茶色のレザーソファとサイドテーブルがあり、その両脇には古い靴用のミシンと木製の小さな衣装ダンスがある。室内には天井から古いカーテンレール(後に、ヴィクトリア時代のカーテンレールだと筆者に発覚した)が何本か横向きに吊り下げられ、そこに展示服がハンガー掛けされている。何点かはトルソーに着せて展示されている。また、衣装ダンスの上には、ブレスレットやワークキャップ、ネックレス等の小物も展示してあった。
アトリエに着くと、ひとことふたこと挨拶を交わすも、既に筆者の心は展示されているアイテムへ。それを知ってか知らずか、おもむろに牧野氏がひとこと。
「それでは、一つ一つ紹介させていただきますね」
何と、デザイナーさん自ら、しかも一つ一つのアイテムを紹介してくださるそうだ。取材する側にとっては、これほど嬉しいことはない。なぜなら、アイテムを観た時に湧いてきた疑問等を、プレス等のクッションを置くことなく、ダイレクトにデザイナー本人に問うことができるからである。
本来であれば、ご説明いただいたアイテムの全てを紹介したいところであるが、紙面の都合上、筆者が個人的に気になったアイテムのみを、以下に紹介したいと思う。
尚、下記に紹介したアイテムは、あくまでも筆者が特別な選定基準もなく独断で選定したものであり、下記に紹介したものだけでなく、全ての商品が極めて秀逸なものであり、選定に極めて苦慮したのだということを、敢えて記しておくことにしたい。

展示会の様子

ワンピースの様子
今回の展示会のテーマは、「思い出の引き出し(Drawer of Memories)」。忘れていた思い出の引き出しを開けるきっかけを与えてくれる服、小物たちを展示し、今までより多くのアンティークファブリック、小物、ボタン等を使っている、とのこと。ちなみに、使用する生地や小物は、全てデザイナー自ら蚤の市等に購入しに行くそうである。
尚、先シーズンまではアイテムの一つ一つに名前を付けていたが、今回はそれをしなかったのだそうだ。「思い出の引き出し」という観点から、身に付ける人それぞれが、それぞれに思い起こすイメージを大切にし、それらを阻害しないように、今回は敢えてアイテムに名前を付けなかったのだそうである。
右の写真は15点目に紹介されたアイテムである。19世紀にテーブルクロスとして用いられていたリネントーションを、1920年代の麻糸を使って手作業で繋ぎ合わせたワンピースで、肩部分も同年代のアンティークリネンを使用しているそうだ。赤いステッチが当時としては珍しく、当時使っていた人のイニシャルまで入っていて、生活感をも漂わせる服だ。
四角い生地を繋ぎ合わせたということで、裾・肩部分・胸部分等のラインやシルエットが鋭角で独特なものであり、それでいて、全体としてはフェミニンでエレガントなシルエットになっている。緻密で繊細な計算に基づいて創出されているということが、自ずから伝わってくる作品である。
テーブルクロスに付いていた、食事をこぼした跡のような染みの部分を指差し、「当時の人々の生活が伝わってくるようで、良いでしょう?」と心から嬉しそうに話す牧野氏の様子もまた印象的であった。
(ワンピースの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
ベストの様子
また、今季のアイテムの中で筆者が個人的に特に気になったのは、19点目に紹介された、左写真のようにアンティークレースを1920年代の麻糸で繋ぎ合わせたベストである。背面は19世紀のメンズジレのディテールで、襟刳りに細いシルクサテンを充ててあるそうだ。
このアイテムで特筆すべき点は、麻糸でジグザグに繋ぎ合わせたそれぞれの部分は、全て一箇所ずつ手作業で縫い留めてある、ということである。つまり、仮に一箇所が切れてしまったとしても、全てがバラバラになってしまう、ということはないのである。レースを繋ぎ合わせるというのはどうやら定番的なものなのだそうであるが、筆者はこの手法を初めて観たので、その衝撃たるや、稚拙は筆者の文章力では表現できないほど大変なものであった。
ボタンの間隔を敢えて均等にしなかったり、後ろ身頃を敢えて多めにとり、リボンで手繰り寄せることによりドレープを出したり、と、見た目にも工夫を凝らしており、そのシルエットも当然に美しい服なのであるが、とにもかくにもその手の込みように脱帽するばかり、のアイテムである。思わず「こう言っては何ですけど、自虐的な服ですねぇ」と呟いたら、牧野氏は笑っておられた。
尚、このブランドのアイテムは、全て牧野氏とアシスタントの方の計 2人だけで、手作業にて量産しているのだそうであることを、この場に敢えて記しておきたい。
(ベストの様子は左の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)
バッグの様子
最後に記したいのは、計29点ご紹介いただいた服の後に見せていただいた数々の小物たちの中にあった、20年代から40年代のヴィンテージのレザーボクシンググローブで作ったバッグ。その当時はボクシンググローブはレザー製だったようで、それをバッグにしてしまった、とのこと。
左写真に挙げたものの他にも、1900年前後の純銀製の指抜きをペンダントヘッドにしたネックレスや、シルク糸が巻かれていたアンティークの木の糸巻きをペンダントヘッドにしたネックレス、手編みの麻ニットとアンティークリネンを組み合わせたブレスレット等々、独特の感性を具現化した、デザイナーの牧野氏のユーモアをも垣間見ることができる小物たちが多く展示されていた。
しかも、それらの小物の一つ一つが、展示されている服に合ったアンティーク性とイメージ性を伴っており、一つのテーマに基づいて、全てのアイテムを統合的に発表するという点において、極めて完成度が高いことを感じることができた。
(バッグの様子は右の写真の通り。画像をクリックすると拡大写真を表示します。)

取材を終えて

コンセプト画像
上記 3点の他にも、特筆すべきものが沢山あったのであるが、前述の通り、紙面の都合上、敢えて割愛させていただくこととしたい。
また、秀逸なアイテムに比し、筆者の文章力が劣っているせいもあって、アイテムの素晴らしさが巧く伝わっていない感も否めず、その点で牧野氏にご迷惑をお掛けしているかもしれない点を危惧してやまない。本稿を読んでも今ひとつアスキカタスキの素晴らしさを感じられない場合は、ひとえに筆者の文章力の至らなさがその理由である、ということを敢えて記しておくことにしたい。
それにしても、とんでもないデザイナーとお近付きになってしまった。筆者はかつて色々な自称・他称「服マニア」を目の当たりにしてきたが、そういった人達とは次元の違う領域での、真の「服マニア」に会うことができた、と思った。こういった方とお知り合いになれたことを、私は誇りに思っている。
今にして思うと、アスキカタスキの展示会を訪れることができただけでも、パリに行った甲斐があった。また、訪問者にそう思わせてしまうほど、何かに取り付かれたかのごとく繊細且つ丁寧なアイテムを創り出すブランドであった。あれほどストイックなまでに手の込んだ服を、筆者は目にしたことがない。限りなく芸術に近い、ある意味で真に芸術的なアイテムであると、感じずにはいられなかった。
「服から服へのリメイクは誰でもやっているのでやらない」、「日本でやる広まり過ぎてしまうからパリでやる」、「1点1点服を観てもらいたいから展示会形式にする」、「手は抜いていないので、細かいところを観ていただいても構いませんよ」、「楽しいですねぇ」、「あのレベル」等々、たった 1時間の間に数々の名言を口にされ、そういう意味でも非常に楽しいひとときを過ごさせていただいた。もし、再びパリコレクション期間中にパリに滞在する機会に恵まれたら、何はなくともアスキカタスキの展示会には訪れさせていただきたい、と願うばかりである。
ともあれ、あくまでも手を抜かず、真に芸術的で美しく、それでいて生活感のある人間的な服をお探しの方には、自信をもってアスキカタスキをお薦めします。

Aski Kataski 2006 S/S lookbook

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Aski Kataski 2006 S/S article

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アスキカタスキ(Aski Kataski)